東京高等裁判所 昭和30年(う)1167号 判決
被告人 山下武蔵
〔抄 録〕
弁護人の控訴趣意第一点について。
窃盗罪は不法に領得する意思をもつて他人の支配内に存する財物を自己の支配内に移したとき既遂の域に達するのであつて、必ずしも犯人がこれを自由に処分し得べき安全な位置に置くことを要しないものであると解すべきところ(最高裁判所昭和二三年一〇月二三日第二小法廷判決参照)本件記録によれば、被告人はパチンコ玉を窃取する目的で、夜間判示パチンコ店店内に入り、閉店後店員等が立ち去るのを待つた上、パチンコ機械裏側の玉入ケースからパチンコ玉五百個入の木箱四個を取り外しこれを二箱ずつ在り合せの手拭に包んで二包とし何時でも持ち出すことができるようにしてパチンコ機械の間の通路に置き、屋外に搬出する機会を窺つている内、見廻りの者に発見逮捕されたものであることが認められるから被告人は不法に領得する意思をもつて、右パチンコ玉に対する他人の支配を排し、これを自己の支配内に移したものであることは明らかである。たとえ、これを屋外に搬出することなく、そのまま店内で取り上げられたものであつても、その所為は既に窃盗既遂の域に達していたものと解するのを相当とする。されば原判決が窃盗既遂の事実を認定したのは極めて正当であつて、毫も事実誤認の廉はなく、これを窃盗未遂なりとする所論は採用し難い。